結論から先に言いますと、ストレスが強いと「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」というホルモンが体内で多く分泌されるのですが、このホルモンは強い覚せい作用があります。そのために不眠傾向になりやすいと考えられています。
【副腎皮質ホルモンとは】
副腎とは両側の腎臓の上に引っ付いているホルモン分泌器官です。その皮の部分(皮質層)から何種類かのホルモンが分泌されます。それを総称して副腎皮質ホルモン(ふくじんひしつホルモン、Corticosteroid)といいます。炎症の制御、炭水化物の代謝、タンパク質の異化、血液の電解質のレベル、免疫反応など広範囲の生理学系に深く関わっている。ストレス、侵襲などさまざまな影響によって分泌され、またステロイドという医薬品としても使用されます。
副腎皮質ホルモンは以下の二種に大別されます。
・糖質コルチコイド:炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝を制御し、リン脂質の生成を防ぐことによって抗炎症剤としても働いたり、好酸球の活動を抑制するなど様々な作用を持ちます。
・鉱質コルチコイド:主に腎臓でナトリウム貯留を促進させ、電解質と水分を制御する働きを持ちます。
それぞれコルチゾール、アルドステロンが代表的なホルモンです。
この副腎皮質ホルモンの分泌量を調整するシステムがあります。
・大脳の下面に付属している、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が分泌。
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・視床下部の下に垂れ下がっている大豆のような形をした脳下垂体から、副腎皮質刺激ホルモン(ふくじんひしつしげき- adrenocorticotropic hormone, ACTH)が分泌。
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・副腎皮質から副腎皮質ホルモン、主に糖質コルチコイドが分泌されます。
それをまとめると次のようです。
視床下部(CRH)-下垂体(ACTH)-副腎皮質(主に糖質コルチコイド)
これを「視床下部-下垂体-副腎系」と呼びます。
また、これを図にすると下のようです。
「視床下部-下垂体-副腎系」は指令系統です。赤い矢印は、分泌を促す指令の系統です。また青い矢印は、指令通り分泌を実行したときや、分泌しすぎたときに、上にフィードバックをかけて、指令を止める働きがあります。これをネガティブ・フィードバックといいます。
視床下部-下垂体-副腎系」を英語ではHPA軸("HPA axis")(Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis)と略して呼びます。
ストレスが強いと、この指令系統の最上位のCRHの分泌が増えて、赤の矢印の指令が下に伝えられていくのです。つまり、なぜかしらネガティブ・フィードバックが十分に働かずにCRHの分泌が増えたまま高止まりします。ストレス状態では、HPA軸の機能が亢進してくるのです。CRHには強い覚せい作用があり、その結果不眠を促進します。
本来、HPA軸は、生命体が環境に順応するために身体の状態を柔軟に変化するよう機能します。たとえば危機状況に直面したらそれを克服すべく睡眠を抑制気味にするという合理性があると考えられます。しかしあまりにHPA軸が過剰になりすぎると、逆に必要以上に不眠症を引き起こして、生命体の機能を低下させたりかく乱させてしまうという異常な機能不全を引き起こしてしまうと考えられます。これは一種の誤作動でです。
強いストレスで眠れなくなったときには、要注意を知らせる信号と考えて、すこし休養をとったり、休憩をしっかりとるなどして、無理を重ねないことも大切です。また程度が強い場合には、医学的な治療を要します。