大塚製薬が国内で開発したアリピプラゾールという内服薬は、通常の抗うつ薬と異なったメカニズムで作用します。効能としては、まず意欲の改善です。起床時に起き上がりにくい、会社に行くのが億劫である、行きたくない、動きにくい、何もする気がしない、といった朝の辛い状態を改善します。睡眠はしっかりとりやすくなり、朝は比較的早めに目が覚めて、スムーズに動きやすく、出社もしやすく、社会機能の全般的な改善が望めます。就寝前で次の日の朝に効果があります。非常に少量の内服で効果があるのも大きな特徴の一つです。最小量である1錠または0.5錠(薬局で割ってもらいます)くらいです。
そもそも安全性が高い成分であるのにくわえて少量で効果がありますので、比較的安心して内服していただけます。ただお薬ですので、たまに相性が悪い時もあります。副作用としては、次の日に眠く感じる、逆に目が覚めるのが早すぎる、そわそわ感を感じるなどです。体重増加の心配はありません。また副作用がなくても効果が不十分発揮しないこともあります。これらは相性次第になります。
アリピプラゾールの作用メカニズムは、一言でいうとドパミンの機能の回復です。前頭葉は目的に向かって意思決定をするための統合する機能、推進する機能といった人間としての高度の社会機能を果たしています。この機能を果たすのに重要な役割を果たしている神経伝達物質がドパミンです。ドパミンは機能しすぎもよくないし、機能低下もよくありません。ドパミンはうまく調節された状態で維持されなければなりません。ドパミンの機能が暴走しすぎますと、興奮気味になったり、逆にまとまりが悪くなって統合不全(場合によっては統合失調症)状態が生じます。逆にドパミンの機能が低下すると、意欲が落ちたり、物事の決断や判断がこんなになったりして、作業の能率も著しく落ちます。ときには生きる意欲が落ちることもあります。アリピプラゾールは、ドパミンの機能を一定の状態にして維持する方向に働きます。
専門用語ではアリピプラゾールは、パーシャル・アゴニストと呼ばれます。アンタゴニストというのは機能を遮断する作用であるのに対して、アゴニストは機能を促進する作用です。パーシャルは部分的という意味です。ですから、パーシャル・アゴニストは部分的に機能を促進するというということです。機能を促進させすぎないし、遮断もしない、中間くらいで維持するように働くわけです。これがちょうどよいくらいで維持されたならば、かなり社会機能が改善されます。
アリピプラゾールは安全性が高く、少量でも効果があり、また中程度以上では焦燥感、不安、興奮その他の諸症状も幅広く改善してくれます。そのため、アメリカ合衆国では内科もふくめたあらゆる内服薬のなかで処方薬売り上げ1位を獲得した年も何度かあったようです。いわば全米1位を獲得した薬でもありました。